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神戸地方裁判所 昭和35年(ヨ)581号 判決 1962年5月14日

申請人 西馬正一 外三名

被申請人 平中鉄工所こと 上久保正一

主文

被申請人が申請人らに対し昭和三五年一一月一四日になした解雇の意思表示の効力を仮りに停止する。

被申請人は各申請人に対しそれぞれ別紙支払金額一覧表の一時支払額欄記載の金員ならびに昭和三七年六月五日以降毎月五日に同表毎月支払額欄記載の金員を仮りに支払え。

申請費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

第一、当事者双方の申立

一、(申請人らの申立)

被申請人が申請人らに対してなした昭和三五年一一月一四日付の解雇の意思表示はその効力を仮りに停止する。被申請人は申請人らに対し昭和三六年一月五日から毎月五日ごとにそれぞれ別紙支払金額一覧表の毎月支払額欄記載の金員を支払え。

との裁判を求める。

二、(被申請人の申立)

本件申請を棄却する。訴訟費用は申請人らの負担とする。

との裁判を求める。

第二、申請人らの主張

一、(解雇)

申請人らは、被申請人の経営する平中鉄工所の従業員であるが、被申請人は、昭和三五年一一月一四日、申請人らに対し、申請人らを解雇した旨口頭で告知するとともに、同日附解雇通知書を申請人ら宛に発送し、右書面は同日頃各申請人らに到達した。

右解雇通知書によれば、解雇の理由は、申請人らが従業員相互の個人的な紛争により職場を放棄し、他の従業員に悪影響を与え、もつて業務を妨害したというのである。

二、(解雇の意思表示の無効理由)

しかしながら、申請人らに対する右解雇の意思表示は、次の各理由のいずれによつても無効である。

(一)  就業規則違反

被申請人は、昭和三五年七月初頃、就業規則を作成して、その一部を平中鉄工所従業員の組織する全国金属労働組合平中鉄工所支部(以下単に組合という)に手交するとともに一部を被申請人方事務所に存置し、組合は同年八月二二日これに対する意見書を被申請人に手渡した。従つて、右就業規則はこれを組合に交付した七月初旬か、遅くとも意見聴取のあつた八月二二日にはその効力を発生したというべきである。

ところで、右就業規則は五一条ないし五三条に解雇に関する規定を設けているのであるから、就業規則の右規定を適用して解雇する場合を除いては従業員を解雇することができないと解すべきであるのに、被申請人は就業規則の規定を全く無視し、これを適用しないで本件解雇を行つたものであつて、このような解雇は無効である。

(二)  不当労働行為

申請人らを含む平中鉄工所従業員らは、昭和三五年二月二八日、組合を結成し、全国金属労働組合(以下単に全金属という)の方針に従い、年次有給休暇制の実施、残業手当、割増賃金の獲得等労働基準法で定められた最低限の権利の実現をはかるため、あるいは夏季手当を要求するために被申請人と再三にわたり団体交渉をもち、組合機関紙の配付や組合大会を開くなど活溌な組合活動をすすめてきた。申請人西馬はその執行委員長、同西は副執行委員長、同鳥井は書記長、同薮本は執行委員をしていたものである。

被申請人は、このような組合活動の結果、割増賃金、有給休暇、夏季手当等について、組合の要求を容れざるを得ない状態におかれ、組合、従つて申請人ら組合役員を嫌悪するようになり、ことに岡本勇らのなれ合い的穏健派が組合を脱退してからは、組合の弱体化、壊滅を策し、たとえば組合員である久田俊一に脱退をすすめるなど不当な介入を行つてきた。組合は、同年一一月一日、被申請人に対して、全金属の方針に従い年末一時金平均一・五ケ月プラス八、〇〇〇円(手取り)の要求をし同月五日までに解答をするよう求めたところ、被申請人は協議中との理由でその回答を遅らせていた。

たまたま同月一一日の昼の休憩時間中に、メーデー参加に反対して組合を脱退していた申請外木戸勇が申請人ら組合幹部を呼び出し、仕事のことで口論をしかけてきたところ、これを知つた被申請人方の通称専務平尾某は、同日定時終業後に全従業員を集めて双方の言い分を聞いたうえ、明日判定を下すと言い渡した。翌一二日、平尾は多忙を理由に判定を一日遅らせたので、その翌日の一三日(日曜日)に申請人らが平尾に判定を求めたところ、平尾は言を左右にして結論を示さず、申請人らが紛争の責任を追求すると、言に窮した平尾は、責任は全部取るべきで、自分もやめるが、木戸や申請人らもやめるべきだと放言するに至つた。そして、翌一四日申請人らが出勤したところ被申請人は申請人らを解雇したといつて就業を禁止し、同日付解雇通告書が申請人らに発せられたのである。

このように、申請人らが口論をしたのは一一月一一日の昼の休憩時間内と終業後及び休日である一三日だけであり、しかも一一日の終業後と一三日は右平尾の指示に従つて話し合つたものであつて、単なる個人間の紛争ではなく、従つて職場放棄又は業務妨害の事実はない。

被申請人が本件解雇をしたのは、組合から年末一時金の要求がなされるや、夏季手当要求の苦い経験からもいよいよ組合を壊滅させねばならないと考え、申請人ら組合幹部を解雇する挙に出たものであり、その結果被申請人の意図が奏功して組合は壊滅した。

以上のとおり、本件解雇は申請人らが組合役員として正当な組合活動をしたことを理由とするものであり、不当労働行為として無効である。

(三)  解雇権の濫用

被申請人が解雇理由としてあげている事実は、前記のとおり存在しないものであるから、本件解雇は解雇権行使の正当な範囲を逸脱しており、解雇権の濫用として無効である。

三、(平均賃金)

被申請人方の賃金支払方法は、毎月一日から月末までの分を翌月五日に支払うことになつており、申請人らの平均賃金三〇日分は、それぞれ別紙支払金額一覧表の毎月支払額欄記載のとおりである。

四、(保全の必要性)

申請人らは、解雇無効確認ならびに解雇の日以後の賃金請求の訴を提起すべく準備中であるが、何分にも働くことによつて家族をも扶養しなければならない申請人らは、本案判決の結果を座して待つことができないので、この申請に及んだ。

五、(被申請人の主張に対する認否)

被申請人の主張事実第二項中、(一)(二)(三)の事実は否認する。(四)の事実中足立が組合を脱退したことならびに平尾を解雇したことは否認する。

(五)の事実中金員提供の事実ならびに申請人西馬、西、薮本がこれを受領したことは認めるが、右は同申請人らにおいてこれを預つているものである。

第三、被申請人の主張

一、(認否)

申請人らの主張事実は、第一項のうち申請人らが被申請人の経営する平中鉄工所の従業員であつたこと、申請人ら主張のとおり解雇したことは認めるが、その余の事実は否認する。第二項(一)のうち申請人ら主張のとおり就業規則と題する書面を組合に手渡したことは認めるが、右は就業規則の草案を示したものに過ぎない。

組合の意見書を受取つたことは認める。その余の第二項記載事実は否認する。第三項は認める。第四項は否認する。

二、(解雇理由)

(一)  申請人らは、かねてより、非組合員である木戸勇と個人的な紛争を続けてきたが、昭和三五年一一月初頃からいよいよ争を激化させ、各自の職場を放棄し、工場内の所を選ばず論争して他の従業員の業務を妨害し、その果てるところを知らず、同月一一日及び一三日に至り両者の対立は頂点に達し、鉄工所の業務運営の不可能を思わしめる状態となつた。当時被申請人は、最も重要な得意先である平塚商店の注文により製品の製造に繁忙を極めているときであり、被申請人は、このような状態では解雇も止むを得ないと考えて、民法第六二八条にもとづき申請人らを解雇したものである。

(二)  なお、被申請人は、今なお就業規則を制定していない。被申請人は、昭和三五年六月二〇日頃、所轄労働基準監督署から就業規則の制定を勧告せられ、一応草案を作成してその一部を組合にも交付し、これに対する組合の意見も検討したうえ、同年一〇月頃労働基準監督署に持参して検討を依頼し(労働基準法第八九条の届出ではない)、翌月一四日、係官から右草案の返還を受けるとともに賃金の条項が不備であるから作り直すように指示されたが、その後さらに検討を加えることもなく現在に至つているものであつて、就業規則はまだ定められておらず、被申請人が従業員を解雇するにあたり単なる草案に過ぎない右就業規則案に拘束されるいわれはない。

(三) 仮りに右主張は理由がないとしても、申請人らの前記行為は被申請人の就業規則第五二条第三号及び第五号に該当するから、本件解雇は同規定による懲戒解雇として有効である。

(四) 申請人は、右解雇にあたり、組合員か非組合員であるかを顧慮した事実はなく、申請人らのほかに非組合員の平尾勇三、木戸勇、組合を脱退した足立智市郎が同時に解雇されていることからも、本件解雇が不当労働行為でないことは明らかである。

(五) なお、申請人は、労働基準法第二〇条に従い、同月一九日、各申請人らに対し、平均賃金三〇日分として別紙支払金額一覧表の毎月支払額欄記載の金員を提供したところ、申請人西馬、西、薮本はこれを受領したが、鳥井は受領を拒んだので同月二五日神戸地方法務局にこれを供託した。

第四、証拠<省略>

理由

一、申請人らが被申請人の経営する平中鉄工所の従業員であつたこと、被申請人が昭和三五年一一月一四日申請人らを解雇したことは当事者間に争いがない。

そこで、まず、就業規則の成否並効力発生の有無について判断することにする。

被申請人が、昭和三五年七月初頃、就業規則と題する書面を組合に手渡し、同年八月二二日、組合がこれに対する意見書を被申請人に手渡したことは当事者間に争いがない。

被申請人は組合に手渡した右書面(甲第四号証の一)は単に規則案に過ぎず、就業規則はまだ制定されていない旨主張し、証人平尾二三子の証言にはこの主張にそうものがあり、また、成立に争いのない甲第四号証の一(就業規則)によると同規則には第五条、第二〇条、第二四条、第二九条、第三二条、第四章、第三五条、第三六条、第五三条が欠けており、その体裁上も必ずしも完成したものとみられないふしもないではないが、右甲第四号証の一及び二、乙第四号証、証人平尾勇三、同平尾二三子の各証言、申請人西馬、同鳥井各本人尋問の結果を総合すると、被申請人は、昭和三五年六月頃、所轄神戸西労働基準監督署から就業規則の作成を勧告され、あわてて、平尾二三子をしてその作成にあたらせたところ、同人は、作成にあたり参考にした文献の記載文例中、被申請人の事業所に適当でないと思われた前記各条項を削り、その余の条文を条文の数の整理もしないで文例どおりに引き写し、賃金条項並右各条項数が欠けているままで被申請人に差し出し、被申請人においてこれに検討を加えてその一部を訂正したが、右各条項数の欠けていることには気付かず、その一通(甲第四号証の一)の末尾に平中鉄工所名義で記名押印して、これを同鉄工所従業員の過半数で組織する組合に意見聴取のために手渡すとともに、同文のもの二通を被申請人の事務所に保存し、組合もまた手渡された一通を組合事務所にそのまま保存した上同年八月二十二日組合は之に対する意見書を作成して被申請人に交付し、被申請人は右就業規則に平中鉄工所上久保正一と記名押印した上右組合の意見書を副へ同年十月十九日神戸西労働基準監督署に届出たが、賃金条項が欠けているため同監督署係員よりその補充を命ぜられたこと、又労使双方においてこの就業規則が既に実施せられているものとして取扱われてきたことが疏明され、証人平尾二三子の証言のうち右認定事実に反する部分は信用できない。

して見ると右は単なる草案ではなく賃金条項を除いた部分については、監督官庁に対する届出手続も完了して居り、また、就業規則を労働者に知らせるにあたり、同法第一〇六条所定の周知方法によることは必ずしも必要でなく、なんらかの方法により相当数の労働者にその内容が明らかにされておれば就業規則として有効に成立しうるものと解すべきであるから、労働者の過半数で組織する組合に意見聴取のため手渡された就業規則が引続き組合事務所に保存され、その後就業規則として実施せられている本件の場合、右就業規則は既に有効に成立し実施せられているものと認めることができる。

二、ところで、就業規則に解雇に関する定めがあるときは、使用者は自ら解雇権を制限し、これに該当する事由がなければ有効に解雇することができないと解すべきところ、本件就業規則には、第五一条、第五二条に懲戒解雇事由が、第五四条に解雇事由がそれぞれ規定されており、被申請人は、右各条に規定されている場合のほかは労働者を有効に解雇することができないものというべきであるから、被申請人の民法第六二八条にもとづく解雇の主張は、この点においてすでに失当である。

三、次に、就業規則第五二条第三号及び第五号にもとづく解雇の主張について判断する。

前示甲第四号証の一によれば、本件就業規則第五二条第三号は他の従業員に暴行脅迫を加えまたはその正当な業務を妨げたとき同第五号は、他の従業員に対して不当に退職することまたは出勤しないことを強要したときをそれぞれ懲戒解雇の規準として規定していることが明らかである。

ところで、申請人西馬本人尋問の結果により成立の認められる甲第二、第三号証、証人木戸勇の証言により成立の認められる甲第五号証、甲第六号証の一ないし六、証人足立智市郎、久田俊一、平尾勇三、木戸勇、岡本勇、南原清治、松田大成の各証言、申請人西馬、同鳥井各本人尋問の結果を総合すると、本件解雇がなされるに至つた経過は次のとおりであることが疎明される。

平中鉄工所では、従来労働組合が結成されていなかつたところ昭和三五年二月二八日、現場従業員二二名が全員参加して労働組合を結成し、岡本勇が委員長に、申請人西馬は副委員長、申請人鳥井は書記長、申請人藪本、同西は執行委員にそれぞれ選任せられ、組合は直ちに全金属に加盟して全金属平中鉄工所支部となり以後、同年五月一日のメーデに参加したり、年次有給休暇制、残業の割増賃金、夏季手当の要求などについて、被申請人と団体交渉をもち、特に夏季手当要求についてはスト権の確立を議論するなど活発な組合運動を続けてきたが、このような運動を過激であると考えた岡本勇、木戸勇外五名の組合員は、同年五月二八日組合を脱退し、執行委員長に申請人西馬が、副執行委員長に同西が選任され、同鳥井は書記長に、同藪本は執行委員に留任した。その後、組合員と脱退者との間に感情的なみぞができ始め、作業能率にも影響を及ぼすようになり、同年一〇月中旬頃からは、受注品を期日までに納入できないような事態も生じ始め、特に同年一一月一日組合が全金属の方針に従い年末一時金平均一・五箇月プラス八、〇〇〇円(手取り)の要求をしたのと、同日被申請人が病気で入院したことから、組合員と非組合員間のみぞは一層深まり、同月一一日に至り、非組合員の中でも組合員に対する反目意識の強かつた木戸勇が、昼の休憩時間に申請人四名を含む組合役員六名を呼び出し、同鉄工所の職長として従業員に対する具体的な仕事の分配を担当している申請人西馬はもちろん、他の組合員らも木戸に仕事を廻そうとせず、同人を継子扱いしているといつて不服を述べたことから論争となり、話がつかないまま休憩時間が終つたので、一応その場はわかれたが、被申請人方で日頃専務と呼ばれ、被申請人入院後は被申請人にかわつて業務の執行に当つていた平尾勇三がこのことを知つて、同日定時終了後に全従業員を集め、従業員らの個人的な問題あるいは平中鉄工所に対する意見を聴いて、雇主側として善処したいといつたところ、結局組合員と右木戸の間の論争となり、木戸は、組合員らが同人をボイコツトして仕事を廻そうとしないと主張し、申請人らは、これを否定して、平尾に木戸を解雇するよう要求し、両者の主張は紛きゆうするばかりで結論が出なかつた。そこで、平尾は、明日もう一度関係者と話し合つて被申請人側の判断を下すと言渡して散会し、翌一二日は平尾が多忙のため話し合いは一日延期せられ、一三日は日曜日で就業規則上の休日であつたが、第一、第三日曜以外は事実上休まない習慣となつていたので、申請人らも出勤し被申請人の事務所で、組合役員として、平尾に解決を求めたところ、再び木戸との論争となり、数時間の論争の末興奮した平尾は私もやめるからお前らもみんなやめろというに至つて、話し合いは打ち切られた。そして、翌一四日、申請人らが出勤すると、解雇したといつて就労を妨げられ、同日付解雇通知書が申請人らに発送されるに至つた。

右認定のほかに、申請人らが木戸と個人的な紛争を続け、あるいは職場を放棄した事実についてはこれを疏明するに足る証拠がない。証人木戸の証言中、被申請人西馬が若い従業員に仕事に必要な図面を渡さずこれら従業員の作業を妨害し、あるいは、被申請人らが木戸をボイコツトし同人に仕事を与えずその業務を妨害した旨の証言ならびにこれに添う証人南原清治の証言は、証人久田俊一、同足立智市郎の各証言及び申請人西馬、同鳥井各本人尋問の結果に照らしてたやすく信用できない。また、前認定のとおり、組合員と非組合員の間に感情的なみぞができ、鉄工所全体としての作業能率が低下したとしても、申請人らが、正当な組合活動の範囲を越えて、ことさらに従業員間の感情的な対立をあおるような行動をとつたり、作業能率を低下させるような行為をするなど、これら感情的対立あるいは作業能率の低下が申請人らの非難されるべき行動にもとづくものであることについても、これを疏明するに足る証拠がない。

また、被申請人は、就業規則第五二条第五号による解雇を主張していながら、同号の解雇事由に該当する具体的事実についてはなんら主張立証しない(なお、申請人らが、昭和三五年一一月一一日定時終了後及び同月一三日の各話し合いの席上で、平尾に対し、木戸を解雇するよう要求したことは前認定のとおりであるが右は被申請人によつて与えられた場で、平尾に対し、自己の要求を述べたものであるにとどまり、これをもつて、就業規則第五二条第五号にいう他の従業員に対し不当に退職することを強要したときにあたるとすることができないのはいうまでもない)。

そうだとすると、申請人らに、就業規則第五二条第三号あるいは第五号に該当する事実があつたということはできず、これに該当する事実があるものとしてなされた本件解雇は、結局被申請人が就業規則において自ら制限した解雇権の範囲を逸脱してなされたものであつて、無効であり、被申請人の就業規則第五二条第三号、第五号にもとづく解雇の主張は失当である。

四、従つて、本件解雇は、他の無効原因について判断するまでもなく、すでに以上の理由によつて無効である。

五、被申請人が、本件解雇を理由に昭和三五年一一月一四日以降申請人らの就労を禁止し、同日以降の賃金の支払をしていないことは、証人足立智市郎の証言、申請人西馬、同鳥井各本人尋問の結果により明らかであり、解雇当時の申請人らの平均賃金三〇日分の額が別紙支払金額一覧表の毎月支払額欄記載のとおりであることならびに賃金支払方法が毎月一日から月末までの分を翌月五日に支払うことと定められていたことは当事者間に争いがないから、申請人らは、昭和三五年一一月一四日以降、右支払方法に従つて前記賃金の支払を受ける権利のあることが認められる。

そして、前記各本人尋問の結果によると、申請人らは、いずれも被申請人から受ける賃金により生計を維持して来たものであるところ、本件解雇により収入の道を断たれ、他に安定した職をみつけることもできず、申請人西馬は失業保険金の給付を受け、申請人西、藪本は日雇労務により、申請人鳥井は労働組合のオルグをすることにより、わずかな収入を得て、かろうじて日々の生計をいとなんでおり、将来の生計維持も非常に不安定な状態にあることが疏明され、本案判決の確定に至るまでの間、前記平均賃金の限度において、仮りに賃金の支払を受けることを必要とする急迫な状況にあることが明らかである。たゞ解雇後、被申請人が申請人西馬、西、藪本に交付したことについて当事者間に争のない平均賃金三〇日分相当の金員については、金員授受の趣旨において当事者間に争いがあるけれども、実質的には右金額の限度において既に賃金の仮払を受けたのと同一の結果を生じているものと解するのを妨げないから、右金額に相当する部分については重ねて仮払を命ずる必要はないものと認める。

よつて本案判決の確定に至るまで本件解雇の意思表示の効力を仮りに停止するとともに、被申請人に対し、申請人西馬には右昭和三五年一一月一四日以降であることの明らかな同年一二月一日以降(昭和三六年一月五日支給分以降)の、その余の申請人らには右昭和三五年一一月一四日から三〇日を経過した同年一二月一四日以降の各賃金を、本判決言渡の日までに履行期の到来した別紙支払金額一覧表の一時支払額欄記載の金額については即時に全額、その後に履行期の到来する部分については昭和三七年六月五日から毎月五日限り同表毎月支払額欄記載の額に従い仮りに支払うことを命ずることとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田常雄 平田浩 藤原寛)

(別紙)

支払金額一覧表

申請人名

一時支払額

毎月支払額

西馬正一

四五九、〇〇〇円

二七、〇〇〇円

西肇

三九七、六〇〇円

二四、〇〇〇円

鳥井誠之

三六四、四六七円

二二、〇〇〇円

薮本十一

四四七三〇〇円

二七、〇〇〇円

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